2026年3月23日、JR東日本は日本初となる「荷物専用新幹線」の定期運行を開始。かつて山形新幹線「つばさ」として活躍したE3系が、最大約17.4トンの積載能力を持つ車両へと生まれ変わりました。 これにより、東北の朝採れ生鮮品がその日の夕方には首都圏の食卓に並ぶ「当日配送」が日常のものとなります。本記事では、東京都北区の東京新幹線車両センターで行われた、最新の自動搬送ロボット(AGV)を駆使した荷降ろし作業の最前線をレポートします。

列車荷物輸送サービス「はこビュン」

列車荷物輸送サービス「はこビュン」

JR東日本グループは、新幹線や在来線特急列車などの輸送力を活用した列車荷物輸送サービス「はこビュン」を2021年から展開しています。東京駅を起点とし、北海道・東北新幹線、秋田新幹線、山形新幹線、上越新幹線、北陸新幹線の各路線で展開。主要都市間を結ぶ広域物流ネットワークを構築しています。

利用形態に応じて2種類のサービスを展開
法人向けの基幹サービス「はこビュン」は、事前契約によるスポット輸送や定期輸送に対応。車両貸切による大口輸送にも対応しています。
「はこビュンQuick」は法人・個人問わず誰でも利用できる緊急輸送サービス。事前予約も不要で、対象となる新幹線の出発30分前までに荷物を駅カウンターに持ち込めば、当日受付が可能。主要都市間の即日輸送を実現しています。

2025年4月からは、臨時列車の一部客室を使用した大口定期運行サービスを開始。より多くの荷物を高頻度で輸送できるように今回、「荷物専用新幹線」が誕生しました。

【参考】E3系新幹線を「荷物専用」に改造!? 年間100億円規模の収益獲得目指し、JR東日本が「はこビュン」サービス本格化! https://tetsudo-ch.com/12997709.html

新幹線が「貨物」を救う、E3系「第二の人生」への期待

車体は白色をベースとし、中間車の窓や車端部には地産品などをエリアごとにデザイン

「荷物専用新幹線」に生まれ変わり、「日本の物流」を支えるのは、かつて山形新幹線として親しまれてきた「E3系」。今回の荷物専用車両への改造は、新幹線という既存インフラを「高速貨物パイプライン」へと転換する、極めて合理的な一手と言えます。

【参考】座席なしの「荷物専用新幹線」が登場! E3系を改造し2026年3月から運行開始 JR東日本 https://tetsudo-ch.com/13018256.html

トラック輸送と比較した新幹線による荷物輸送のメリット

新幹線ならではの速達性を活かした「地域創生」

盛岡から東京まで配送する場合、トラック輸送を利用するなら前日の集荷が必須です。荷物専用新幹線なら、朝採れの生鮮品や当日の朝に仕上げた製品をその日のうちに首都圏へ届けることも可能になります。
速達性の向上により、鮮度が大切な商品を高品質な状態で配送することが可能になるほか、必要なときに必要な分だけ、迅速に届けることが可能になり、余剰在庫や廃棄ロスの削減、欠品リスクの回避にも寄与するでしょう。

これまでの主な「はこビュン」輸送(画像:JR東日本)

また、新幹線の速達性を活かすことで、遠隔地を繋いだビジネスマッチングの機会を創出。物の移動の促進と人の移動の活性化を通して「地域の魅力発信」「地域ブランドの確立」「観光産業の発展」「交流人口の増加」「農業・水産業・工業の振興」「文化交流の促進」にも大きく寄与すると考えられます。

深刻なトラックドライバー不足

ドライバー不足の実態(画像:国土交通省「物流を取り巻く動向と物流施策の現状・課題」より)

前述の通り、トラック輸送は新幹線輸送と比べて時間がかかります。荷物の量が多ければ多いほど労力が必要となりますが、物流業界の「2024年問題」(働き方改革関連法によりトラックドライバーの時間外労働に年960時間の上限規制などが設けられたことにより生じた、長距離輸送の減少をはじめとする問題)により、人手不足のなかで人員を確保するのは厳しい状況です。
荷物専用新幹線であれば、多くの荷物を短時間で運ぶことができます。

CO2排出量を削減

列車輸送のCO2排出量は、トラックの約10分の1と極めて低いため、輸送手段をトラック輸送から荷物専用新幹線に切り替えることで、脱炭素の実現が可能です。荷物専用新幹線は、環境に配慮した次世代の物流手段と言えます。

東京新幹線車両センターに到着!

東京新幹線車両センターに到着したE3系「荷物専用新幹線」

2026年3月23日、盛岡新幹線車両センターを正午前に出発したE3系「荷物専用新幹線」(7両編成)が、15:24東京駅に到着。16:00前に東京新幹線車両センターへ到着しました。

E5系「やまびこ56号」と連結されているE3系「荷物専用新幹線」

旅客用のE5系「やまびこ」と連結した状態で入区しました。

E5系E514形 新幹線電車
座席が撤去された荷物専用新幹線車内(画像:JR東日本)

今回は公開されませんでしたが、車内は座席が撤去され、床面は横揺れを抑えるレールやフラットな滑り止め加工が施されています。広大な貨物スペースは、最大約17.4トンの積載能力を誇ります。

荷下ろしが次々と行われていきます

カゴ台車は、旅客車時代の客扉(幅850mm)の規格に合わせたサイズで製作されているため、スムーズに出し入れが可能です。荷物は専用のカゴ台車に載せたままの状態で運び出されていきます。

カゴ台車同士を連結し、ベルトも設置します

複数のカゴ台車を連結する作業は手作業で行います。

AGVを先頭に自動で移動するカゴ台車

AGV(Automated Guided Vehicle、無人搬送車)が、荷物を積んだ専用のカゴ台車を連ねて引っ張り、自動で牽引。車両センター内の通路をスムーズに走行し、待機していた配送業者のトラックへと荷物を運んでいきました。

荷捌き場でトラックに積み替え。本日輸送した生鮮食品のひとつ、岩手県産の活きホタテは、フードスタイル三田店に運ばれました

「新幹線からトラックへ」流れるように荷物が移動する光景は、次世代物流のスタンダードを感じさせました。

「少ない揺れで時刻通りに運べる」ことが強み

JR東日本マーケティング本部 まちづくり部門 開発戦略ユニットマネージャー 三井揚介氏

現場で取材に応じたJR東日本マーケティング本部 まちづくり部門 開発戦略ユニット マネージャー三井揚介氏は、今回の大口輸送サービス開始について「本日は精密機器や駅弁、海産物など約800箱の荷物を運びました。ここ3年ほどより多くの荷物を運ぶトライアルを実施してきたなかで、一列車で運ぶ量としては最高の荷量です。まずは『少ない揺れで時刻通りに運ぶ』という強みを理解していただき、ひとつでも多くの定期的な荷物運送を行っていきたい」と、手応えを感じるとともに今後に向けた思いを語りました。

ついに走り出した「荷物専用新幹線」。平日にほぼ毎日、法人向けの荷物輸送サービスとして上り専門で定期運行します。今後は東京~盛岡の下り便に加え、仙台エリアや新潟エリアでの実施も検討しているとのこと。これからの「はこビュン」が次世代物流のスタンダードとなるのか、そして私たちのライフスタイルをどう変えていくのか目が離せません。

文・写真:斎藤若菜

(旅と週末おでかけ!鉄道チャンネル)

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