総事業費倍でも事業は成り立つ?

では、総事業費がほぼ倍になっても、事業そのものは成り立つのでしょうか。そこで重要になるのが、費用に対してどれだけの社会的な便益が見込めるかを示すB/C(費用便益比)です。

関西高速鉄道が設置した事業評価監視委員会は、今回の全事業B/Cを30年間の評価で1.05と算定し、「事業継続は妥当」としました。1をわずかに上回る水準で、算定上は便益が費用を上回る形です。

ただし、2023年度の事業再評価ではB/Cは1.49でした。今回は総事業費が約3300億円から6425億円へ増えたことに加え、想定利用者数も1日26.4万人から24.3万人へ下がっています。数字だけを比べるのではなく、算出条件そのものが更新されている点にも注意が必要です。

今回の見直しでは、便益を金額に換算する際に使う「時間評価値」を更新しました。2023年度の事業評価監視委員会では、2010年の近畿圏パーソントリップ調査時点の計測値を使っており、その後の経済状況を踏まえると便益を過小評価している可能性があると指摘されていました。このため今回は、2021年の同調査時点の計測値に置き換えて便益を算定しています。

基礎データも、2010年の近畿圏パーソントリップ調査から2021年調査へ更新。将来人口についても、国立社会保障・人口問題研究所の2018年推計から2023年推計へ切り替えました。総事業費だけでなく、需要や人口、時間価値を現在に近い条件へ置き直したうえで1.05という結果になっています。

事業継続は妥当、総事業費は上振れリスクあり

なお、なにわ筋線はこれから着工する事業ではありません。大阪市によると2021年10月に工事へ着手済みで、今回問われたのは「着工するかどうか」ではなく「増額後も事業を継続することが妥当か」です。監視委員会は、その点について継続を妥当と判断しました。

市の負担も増えます。現計画3291億円では市負担は552億円。現行の地下補助スキームが増額分にも適用される場合、6425億円では1146億円となり、増額分に対応する市負担は594億円です。大阪市は、この594億円を限度額として関係者と協議を進める方針です。国費についても、大阪府やJR西日本、南海電鉄とともに確保へ向けた協議を続けるとしています。

もう一つ見逃せないのが、6425億円が「今後一切増えない上限額」ではないことです。今回の精査では、すでに生じた物価上昇の影響を計算する際、2025年度以降の物価を一定としています。一方、リスク評価では2026年度以降も物価上昇が続くケースを別に試算しました。

工事費について、物価上昇が年2%で事業完了まで続く場合は約330億円、4%なら約661億円、7%なら約1157億円の追加影響を想定しています。用地費でも地価や物価の上昇によって約70億~142億円、事業期間が延びた場合には約119億~176億円の影響を見込んでいます。

つまり今回の6425億円は、現時点で判明している条件を精査した事業費です。工事費がほぼ倍になった一方、B/Cは1を維持し、第三者委員会は事業継続を妥当と判断しました。ただ、開業までには物価、地価、地中障害物、工期などのリスクが残ります。大阪市は国費や事業資金の確保を関係者と協議しながら、コスト縮減とリスク管理を続けるとしています。

(画像:大阪市、PIXTA)

鉄道チャンネル編集部
(旅と週末おでかけ!鉄道チャンネル)

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