非電化区間を行くJR西日本のキハ120形気動車。通常は1両または2両編成で運転されます(画像は三重県のリーフレットから)

沿線人口減少などで列車利用客が減ると、鉄道会社は減便や、極端な場合は路線廃止を打ち出す。すると、沿線自治体が反発するーー。マスコミで時おり目にするパターンのニュースですが、全国にはこれとは反対に、自治体と鉄道会社がWINWINの関係で利用促進を目指す事例もあります。

そのモデルケースがJR関西線(正式な線区名は関西本線)。三重県、伊賀市、亀山市、JR西日本の4者は2023年11月開催の「関西本線活性化利用促進三重県会議」(三重県会議)で、名古屋と奈良方面を直通する臨時列車を2024年秋に実証運行する方針を確認、調整を進めています。

本コラムは関係機関の考え方とともに、関西と中部の2大都市圏を結ぶ幹線鉄道ながら、現在も中間60キロほどに〝単線非電化区間〟が残る線区の歴史をたどります。

名古屋、奈良、大阪から利用客呼び込む

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三重県会議は2022年6月に設立されました。目的は「(三重県内の関西線で)利用促進の取り組みを進めるため」。利用促進を目指すのは、JR西日本が運行する三重県内の関ー島ヶ原間(36.2キロ)です。関西線が結ぶ名古屋や奈良、大阪で沿線の魅力を情報発信。利用客を呼び込むのが基本戦略です。

キーパーソンを1人挙げれば、三重県の一見勝之知事。ご存じの方も多いでしょうが、国土交通省で自動車局長などとして地域交通の再生を先導。2021年の知事選で初当選し、施策を実践する立場に代わりました。

線路はつながっていても乗り換えが必要

関西線の現状。JRが発足した1987年度、1日当たり輸送密度は4294人ありました。ところが年ごとに減少し、2021年度データは766人。国鉄時代、「民間企業のJRでは経営が困難」と線引きした特定地方交通線の輸送密度は4000人未満。指標を当てはめれば、関西線は5分の1程度の利用客しかありません。

利用客を定期客と定期外に分ければ、7割が定期客。定期外は3割だけです。関西線は通勤・通学には利用されるものの(定期客の相当数は通学生のはずです)、沿線外から訪れる人たちの移動手段としては十分に機能していないことが分かります。

大きな理由は線区の運行形態。関西線は名古屋ーJR難波の174.9キロ(支線を含めず)。名古屋方から名古屋ー亀山間(59.9キロ)、亀山ー加茂間(61.0キロ)、加茂ーJR難波間(54.0キロ)に3分割できます。

関西線の路線図。名古屋ー亀山間がJR東海管内、亀山ーJR難波間がJR西日本管内。三重県内では河原田で伊勢鉄道、亀山でJR紀勢線が分岐、拓植でJR草津線、伊賀野で伊賀鉄道(旧近鉄伊賀線)と接続します(資料:三重県)

名古屋ー亀山間と加茂ーJR難波間はそれぞれ名古屋、大阪への通勤圏。電化され、一定の間隔で列車が運転されます。

ところが、真ん中の亀山ー加茂間は単線非電化。電化、非電化区間を直通運転する定期列車はありません。名古屋から奈良、大阪方面に向かう場合(逆コースも)、亀山と加茂で最低2回の乗り換えが必要になります。

「知恵を持ち寄り利用客を増やす」(一見知事)

乗り換えの不便を解消し、名古屋から奈良へ直行できるようにして利用を促すのが三重県会議の考え方です。

三重県内の関西線沿線には、伊賀上野城跡や観菩提寺(いずれも伊賀市)といったスポットがあります。伊賀市と亀山市は、直通列車運転に合わせてイベントを開催、鉄道利用の観光客を歓迎します。

一見知事は2023年11月の会見で、「三重県会議は、関係者が知恵を持ち寄り利用客を増やすための場。駅からの二次交通整備などで、利用環境を整えたい(大意)」と鉄道再生に意欲を示します。

「関西本線活性化利用促進三重県会議」の開催風景。会議は通勤に鉄道を利用する協力企業を募集したり、潜在需要を探る調査を手掛けます(写真:三重県)

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